『陥穽(かんせい)3』「少し気持ちを落ち着けてください」
私は穏やかな口調で言うと、みぃの肩に優しく指を食いこませた。
「知っていますよ。こうやって可愛がられることを、今まで何度も妄想してきたのでしょう?」
鏡に写った彼女の顔が、みるみる真っ赤に染まっていくのが、私にはわかった。私の嘲弄をこめた言葉で、彼女の身体は魂が脱け出したかのように力を失った。
抵抗が無駄だと認めたのだろうか。
いや、そうではないだろう。
身体の自由を奪われた状態で、これから自らの身に降りかかるであろう淫戯を、一瞬にして想像したのではないか。
そして、胸ときめかせ、甘美な予感に肉体をしびれさせたのではなかったか。
私はその瞬間を逃がさなかった。
素早く美智子のアゴに指をかけ、首を後ろに振り向かせてから強引に唇を吸った。
私の口からの可憐な唇の隙間へ、欲望で熱くなった吐息が流れこむ。
「こうされたくて、逢いに来たのでしょう?」
私はすぐに唇を離し、美智子の瞳を覗きこみながら問いただした。
「ああっ・・・で、でも・・・」
彼女は、それ以上言葉を続けられなかった。
なぜなら、打ち震える唇を、私が再び塞いだからだ。
「ん・・・」
鏡の中で、ふくよかな胸肉が激しい鼓動に揺すぶられ、ぷるんぷるんと上下する。
小刻みに首を振る美智子にかまわず、私は何度も人妻の唇を奪った。たちまち桃色の唇が、私の唾液に濡れ光っていく。
すると、どうだろう。
さっきまで拒絶の仕草を見せていたはずなのに、美智子の唇が薄っすらと開きはじめるではないか。
私は間髪入れずに、歯列の間に舌先を忍びこませた。ねっとりとした触手のようにだ。
互いの性器と性器で繋がって、体液を交わらせる瞬間に、男と女は結ばれる。けれど、初めて口づけを交わし、男の舌を女が口内に受け入れる瞬間。その興奮と悦びは、性行よりも官能的で鮮烈ではなかろうか。
「むぅ・・・ふぅんんん・・・」
美智子が鼻で小さく喘いだ。
(ああ、なんて可愛いんだ・・・)
愛しさを募らせながら、美智子の口内に唾液を塗り付け、ネロネロと舌をうごかしてしまう。
たまらなかった。身体中の細胞がざわめき立つ。血管の中を欲情でたぎった血が駆けめぐり、勢いよく下半身へと流れこんでいくのがわかる。
あなたの甘く激しい口付けは、私の身の内に深く隠していたパンドラの匣を開けてしまいました。あなたの舌が挿し入れられた刹那に、まるで鍵が鍵穴にカチリと嵌るようにして、私の欲望は解き放たれてしまったのです。
それでいて、頭の中は手つかずのキャンバスのように真っ白に染まり、何も考えることなどできません。情熱的な口付けが、身体の芯を蕩(とろ)かし、立っていることさえやっとだったのです。
いえ、本当はカフェで手を握っていただいた時から、私の身体はあなたを乞い求めておりました。
でも、それだけではありません。ホテルの部屋で、あなたの視線が、私の口元や胸に注がれるたびに、居たたまれないほどの気恥ずかしさで、身を強張らせておりました。
ですが、あなたの熱い眼差しは、まるで愛撫のように身体を這いまわり、触れられていなくても、私の秘所は猥(みだ)りがましく潤ってしまっていたのです。
(みぃのメール抜粋)「ほら、舌を出してごらん」
美智子は、つぶったまぶたをふるふる震わせて、ピンクの可愛らしい舌先をのぞかせる。
「もっと突き出して!」
命令口調に驚いたのか、美智子はまるでアカンベーでもするかのように、舌を一杯に差し出した。私への献上品である。
べロリ・・・べロリ・・・
ゆっくりと舌を掃くように舐め回し、味わい尽くす。それでも足りずに、美智子の舌先を強く吸いこんで甘い唾液をすすった。
美智子の肩はガクガクと揺れ、呼吸が次第に荒くなっていく。彼女も私と同じように、欲情しているのだろうか。
そう思うと、さらに愛しさが全身に満ち満ちて、ぴちゃぴちゃと音を立てながら、舌の裏や歯茎までなぶり回さずにはいられなくなる。
このまま勢いに任せて、激しく乳房を揉みしだきたかった。口づけの興奮で、私の分身はヌルヌルになっていることだろう。その猛ったモノを取り出して、美智子の手に無理やり握らせてしまうのも悪くはない。
カフェで握りしめた白く小さな手を想った。
その穢れを知らぬ美しい指先を、匂いたつオス汁でベトベトに濡れ汚してしまおうか。
だが、焦ってはいけない。
甘く激しい口づけによって、美智子の肉体は陥落したに等しいはずだ。
その証拠に、彼女は抵抗するどころか熱烈な口づけに応え、私が流しこんだ唾液まですすったのである。
(つづく)
※体験を基に描いていますが、一部フィクションが含まれています。
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