『陥穽(かんせい)2』力まかせに、みぃの身体を引き寄せた。
私の胸と彼女の背中がぴったりと張りつく。
「このブレスレットも、とてもお似合いですよ」
私の乱れた呼吸が、美智子の艶やかな髪にふりかかる。
両手の自由を奪う手錠より、みぃに似合う光り物があろうはずもない。
彼女は何かの冗談だとでも思ったのか、黙ったまま目を丸くして、私の様子を鏡越しにうかがっている。
美智子の髪に鼻を押し当てると、私は露骨に鼻腔をひくつかせ、女体から立ちのぼる香りを楽しんだ。
「香水なのかな。いい匂いだ」
私がその言葉を言い終わらぬうちに、彼女は自分の両手を前に引き戻そうとした。そのことで、後ろ手にはめられた手錠の存在を改めて実感し、ようやく事の成り行きを理解しはじめたようだった。
拘束から逃れようと、力をこめて腕を左右に広げる。
しかし、手錠は見た目よりも頑丈にできている。鎖がピーンと張りつめ、鉄のきしむ音がむなしく響くだけだった。
「な、なんで、こんなことを・・・」
美智子は言葉を震わせ語尾をつまらせた。
なんで、こんなことをしなくてはならないのか・・・
こんなことをしなくても、私はあなたに抱かれてもいいのに・・・かな?
私は彼女の言葉を都合よく想像して、ひとり残酷な笑いをかみ殺していた。
「こ、これを外してください・・・」
美智子の声は高ぶっていた。
両腕の自由が効かないもどかしさとともに、思いがけない私の蛮行に怒りがこみあげてきているのかもしれない。
「ふふふ・・・せっかくお似合いなのだから、もうしばらくは、そのままでいてください」
皮肉な笑いとともに発した私の言葉で、彼女は気が動転してしまったのか、再び両手を動かして、鉄のイマシメを解こうと必死になった。
あなたが手ずからかけてくださったネックレス。その時の私の喜びが、いかほどであったのか、あなたに正しく伝わっておりましたでしょうか。
私は鏡の中の自分を観つめながら、身も心も夢見心地と成り果て、あなたの愛の奴隷となっていました。まるで、全裸に首輪をかけていただけたような、恥ずかしさと喜びを感じていたのです。
あの瞬間、あなたが私に「服を全て脱ぎなさい」と命じられていたら、私は素直に従っていたかもしれません。黒い着衣を脱ぎ落とし、あなたに私の全てをご覧いただくために。そして、この身をお好きなようになさってくださいと、首輪のお礼に差し出していたことでしょう。
けれど、鉄の輪が私の手首に嵌められた時、私はその意味を理解できず、ひたすら狼狽してしまいました。今にして思えば、あの手錠は、あなたが私に対してしたいことではなく、私がして欲しいことを実現してくださったのだと、心に染みわたるように理解できるのです。ただ、あの時は、少しだけパニックになっていたのだと思います。
(みぃからの手紙抜粋)(怖がらせてしまったかな・・・)
一瞬のためらいが脳裏をよぎる。けれど、すでに冗談で済ませられるような状況ではなかった。
「手首に跡が残ってしまいますよ」
穏やかにささやきかけてから、彼女の両肩に手をかけ、鏡に向かって胸を反らせる。
その瞬間「あんっ!」と可愛らしく、美智子が小さな悲鳴をあげた。
鏡面には、峰高い膨らみが浮き彫りにされている。後ろ手だけに、バストの稜線ばかりが強調される体勢だった。
「このお胸、嬉しい誤算というべきかな」
私は鏡を覗きこみ、恥辱に呆けた表情と、突き出された乳房をジロジロと見比べた。
「こんなに大きいなんて、想像すらできなかった」
そう言いながら、さらに胸がそびやかされるように、彼女の肩をグイッと後ろに引き寄せた。
すると突然、美智子が、私の腕の中で抵抗を試みはじめる。
おそらく、私の腕から逃れようとしているのではない。私の視線の愛撫から逃れたいのだ。
しかし、いくら彼女がもがいてみたところで、両腕の自由を奪われた女の力は、たかが知れている。
そう、彼女は蜘蛛の巣に絡めとられた美しい蝶。
罠にかかった私の獲物だった。
(つづく)
※体験を基に描いていますが、一部フィクションが含まれています。
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蜘蛛の糸に絡まった蝶は
動けば。動くほどに
その粘膜性の糸がその身の自由を
奪ってゆくことに気が付かない。
しかし。まるで。そのことしか
頭に浮かばないように。。
逃れようと無駄な努力するが。。
やがて。その糸に雁字搦めになりながら
蜘蛛の養分とされることになる。
みぃさま。智さまの妄想の栄養となっていますか?
それが蜘蛛の手で。卵から幼虫へ。蛹を経て。
華麗な蝶へ。ヘンタイしたあなたの宿命ですから。
いや。本当は。。それがあなたの本当の。。
目的ではなかったのでしょうか?
その乳房で蜘蛛の目を誤魔化しながら。
ワザと蜘蛛の巣へ迷い込んだ蝶の姿では?
では。