『密会3』カフェで落ち合った後の予定は何も決めていなかった。
その場で別れの言葉を告げ、それぞれが今まで通りの生活に戻っていくことも可能だ。
けれど、私にはそんなつもりは微塵も無くなっていた。
そう、みぃを見た瞬間から・・・
私はさりげなく、テーブルの上の彼女の手に自分の手を重ねる。むっちりとして吸い付くような餅肌だった。美智子のふくよかな胸が、呼吸に合わせて大きく波打つ。
「ほら、ぼくの手も震えているでしょう」
私は自分の緊張を隠そうとはしなかった。私の手の内に捉えられた小さな手もプルプルと震えている。
「ずっと、こうしたいと夢見ていました」
ギュッと力をこめて手を握りしめ、みぃの表情を覗きこむ。
すると、彼女は慌てたように視線を落としてしまう。
そのはにかむ表情の可愛らしさに私は見惚れ、気づかれないように胸内で熱くなった息を吐き出す。
あなたが無骨だと仰しゃっていたお手は、とても男性的な繊細さを醸し出し、私にとって、とても魅力的に映っておりました。
そのお手が私の手に触れた瞬間、私のすべての意識が一瞬途切れました。その直後、これ以上高ぶることはないだろうと思えるほど、私の感情は揺さぶられ、戸惑い・・・恥ずかしさを覚えました。
あなたはお気づきないかも知れませんが、それはとても唐突で、それでいて自然だったのです。
あなたの震える手がとても印象的で、その震えを感じたとたん、私の全身がわななくのを感じました。
一瞬の共鳴・・・
あなたの震えが私に連鎖を産み出したのでしょうか。
この手指で・・・
と、ほんの何秒かの間にいろいろな妄想を巡らせていたことを、あなたはご存じないかも知れませんね。そんな感情を悟られたくなくて、あなたの熱を帯びた手指から何度も逃げ出そうとしました。けれど、その度に握り返されることを望んでもいたのです。
恥じらう私をあなたは冷徹に愉しんでいるようでした。けれど、あなたの熱いほどの感情は、握る手指からあふれ出ていたように感じております。それゆえ、私は狼狽し・・・全身の痺れるような快感を堪えていたのです。
(みぃのメール抜粋) 一方、私の胸に湧きあがってきたのは、出逢いの感動でも、彼女に初めて触れた喜びでもなかった。
私は柔らかな手の感触を楽しみながら、彼女の身体を想像し、淫欲で胸を熱くしていたのだ。
黒い装いの内側で息づく熟れた媚肉・・・
豊かな胸の頂点で咲き誇る桃色の薔薇・・・
滲みだした魅蜜で匂いたつ女の濡れ扉・・・
たまらない時間だった。
この日の私は、彼女に合わせて黒づくめの装いだった。
黒いボクサーブリーフの中で、私の分身は痛いくらいに怒張している。下腹部で精子がグルグルと音を立て、精管にこみあげてくるのがわかるほどだ。
「貴女への贈り物があったのだけど、うっかりホテルに忘れてきてしまいました」
私は欲望がたぎった瞳を伏せて、そう切り出した。
「もし良かったら、これからホテルへ取りに行こうと思うのだけど・・・」
それは、彼女をホテルへと誘う口実に他ならなかった。
そう、使い古された手口。あからさまな誘惑である。
当然、彼女もそのことに気がついており、暗黙の了解が交わされているものだと思っていた。
ところが、後日、彼女から話を聞くと、本当に贈り物を忘れ、単にホテルへ取りに行くのだと思ったらしい。
二人は穴蔵のようなカフェから這い出して、地上に立った。
初夏と呼ぶにはまだ早すぎるが、空気は湿った熱気をはらみ、夏の匂いが都市の喧騒の中から立ちのぼってくる。
それは、強い陽光がまぶしい午後のことだった。
(つづく)
※体験を基に描いていますが、一部フィクションが含まれています。
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勘違いから物事の始まることがある。
私も10代の出会いも最初は
相手の勘違いと想っていましたが。。
今では。その相手が正しかった事が
今更のように分かっている。。
神様の悪戯としか想えない現実でも
後から考えると粋な天から贈り物の
ように想えてならない。
ただ。幸運はいつもとは限らないのが
人生ですね。何が勝ちで負けなのか?
未だに。迷路で方向を失っている
帆船のようです。風任せと云う事ですかね。
では。