『邂逅1』「人妻みぃ」こと美智子(仮名)と私の出逢いは、
かれこれ15年前までさかのぼらねばならない。
二人はチャット・サイトで知り合った。
書き言葉しか存在しないヴァーチャルな世界でのことだ。
15年前の私は、某チャット・サイトに足繁く通う常連だった。
ウイットに富んだ大人の会話を楽しむために・・・
というのは建前で、その頃の私は、時間が有り余っていた。
会社を辞めフリーになったものの、食うに困らぬほど仕事に恵まれなかったのだ。
妻の稼ぎと、心もとない預金で食いつなぐ、明日をも知れぬ境遇。そんな現実から逃避したくて、私はネット中毒になっていたのだと思う。
自らの正体を名乗らず、どこの誰とも分からぬ人たちと文字だけでかわす交流は、安楽なものに思われてしまうかもしれない。
しかし、文字だけのコミュニケーションだと、逆に相手の人間性が単純明快に透け見えてしまうことがままある。
時には、リアルの人間関係より複雑になって、そこがまたスリリングで病みつきになる原因でもあった。
そのうち、自然派生的にグループが生まれる。
その仲間内で、ひときわ魅力的な女性がいた。
年齢さえ分からぬ謎の多い存在だが、豊かな感性を言葉の端々にうかがわせ、控えめながら品性と知性をかねそなえた女性。
それが「みぃ」であった。
次第に私は、彼女の魅力のとりことなっていった。
けれど、彼女は皆にとってマドンナ的な存在。
艶やかな言葉を操って、男性陣のハートを鷲づかみにする言ってみれば高嶺の花。
私は彼女への想いを胸中に深く秘して、他愛のない会話を交わす「チャット仲間」であり続けることを選んだ。
(つづく)
※体験を基に描いていますが、一部フィクションを含みます。
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メールにて返信させていただきました。
今後ともよろしくお願いします。