話は昨年の夏までさかのぼる。
その日、私たちはスカイプで雑談をしていた。
珍しく、みぃが職場の話を始め、私は聞き役に徹する。
仕事のことや仲の良い同僚のことは、以前に何度か話してくれていたが、その日は違った。
ちょっと言いづらそうに、それでいてはにかんだ微笑みを浮かべ、上司について語りだしたのだ。
「智様に雰囲気が似ているんです」
そんな話し出しだったように思う。
高身長でメガネ男子でヒゲ面、フェミニストで女性にモテて・・・なんて話を、うっとりしながら続ける。
機先を制して似ていると言われた以上、みぃが他の男をどれほど褒めても、私はただ聞いているしかない。
実際は、自分が褒められているのでもなんでもないのに。
「好きなんですね?」
「好きというか上司として尊敬してるというか」
「抱かれたい?」
「えっ!? そんなんじゃありません・・・」
きっぱり否定した、という印象はまったくなかった。
語尾が弱々しくなったのは、一度や二度は、抱かれる想像をしていたからではないか。
そこまでいかなくても、私に言われたことで「抱かれてもいいかな」くらいは、そのとき脳裡をかすめたに違いない。
近々、その上司を囲んで、仲の良い同僚たち数人と飲み会があるのだという。
彼女は初デートにでも出かけるように、そわそわ、いそいそと洋服選びに夢中だ。
そこで私の出番である。相談を持ちかけられ、結局、私はまるっきりお人よしの彼氏といった風情で、飲み会の服装を指南するハメになった。
「酔ったフリをして誘惑してみたらどう」
「それはムリです」
冗談めかして私が言うと、彼女が真顔で答える。
なんでも、その上司を露骨に狙っている同僚もいるが、歯牙にかけぬどころか、普段から彼は「俺はそういうのは絶対にしないからな!」と宣言しているらしい。
なるほど、そういう部分も好感度が高いのね。
彼女の感情は、昔のウブな女学生が教師に憧れを抱くような、そんなところなのだろうと私は想像していた。
といっても、大人の男と女のこと。
とりわけ、みぃは私と出逢う前から「妄想力」が発達しており、上司と部下の赦されざる情事なんて想像は、いろはの「い」くらい初歩的なものだろう。
さらに私と出逢ってから、勇気を奮って一歩を踏み出せば、妄想が現実化することも知ってしまっている。
単なる憧れに終わるのか、男と女の関係にまで発展するのかは、彼女の心持ちひとつのような気がしないでもない。
それから数日後・・・
飲み会の写真を、私は見せてもらうことになる。
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なんて。。心が広いというか
懐が深いですね。。
デート指南までするとは!
悪代官の私でも。越後屋さんには
敵わないのかもしれませんね。
「お互いに悪じゃの~~。」の台詞が
出てこないかも!しれませんよ。