短編読み物「夜桜6」 芹尾と目を合わせぬよう、美咲は息を殺してうつむいた。
視線を下げていると、己が乳房が麻縄で歪められていくさまを、否が応でも見つづけなくてはならない。
初めての時と同じく、胸の谷間に沿って縄が往復する。
胸の突起が布で擦れ、襦袢に形が浮きだしてしまうのではないかと、それだけが気がかりだ。狂おしい時が流れていく。
ギリギリと音がするくらい縄が引き絞られた。上下に渡った縄の合間で乳肉が潰されていく。
「んん……はぁ……」
声にならない呻(うめ)きと吐息が、たまらず吹きこぼれてしまう。
柔肌に縄が食いこむほどに、妖しい陶酔感に襲われ、ぐらぐらと身体が揺れた。風邪をこじらせ自分の肉体が自分の物でなくなるような不思議な体感がした。
それでも芹尾は容赦がなかった。
美咲の表情を窺いながら、縄を限界まで引きあげる。
上下の縄が狭まるのに合わせて、前へ前へと迫りだしていく乳房が眼前にあった。そこだけが肉体から切り離されたような卑猥な形だった。
「うくっ……」
必死で声を押し殺す。
感じ声をあげてしまいそうだった。自分の熱い吐息が胸に降りかかり、谷間にじっとりと汗が滲みはじめる。
男の意のままに形を変える肉体が憐れに思えた。憐れな自分を意識すればするほど身体が敏感になり 歪み潰れた乳房から目が離せなくなっていた。
長く余らせた縄が、縦に通した縄にくるくると巻きこまれていく。美咲は思わず繊細な指の動きに見とれてしまっていた。
この指が、胸の敏感な部分に当たったら、間違いなく喜悦の声をあげてしまうだろう。そうならないように祈る気持ちと、触れて欲しいと焦がれる想いが半ばする。
黙って手を動かしていた芹尾が「よし」と小さくつぶやいた。双乳の間に、太い縄の柱が編みこまれていた。一部の隙もない美しい仕上がりである。
部屋を支配する緊張した空気も、胸の内の息苦しさやときめきも、縄が放つ独特の香りも、全てが愛おしく思えてならなかった。もちろん、黙々と縄仕事に打ちこむ芹尾も。
「美しいですね」
背後に回った芹尾が、美咲の顔のすぐ横に顔を並べて鏡を見つめる。頬が触れ合うほどの接近にはっとして、美咲はそっと唇を噛みしめた。
改めて自分の姿を眺めると、ついうっとりと眼を細めてしまう。縄によって性的特徴をこれでもかと強調された女体は、我が身であっても美しく感じられた。
芹尾に施された縄だからこそ実感できる歓びが大きかった。
「これで上半身の縛りは完成です」
含羞(がんしゅう)を顔に浮かべた鏡の中の美咲に向かって、芹尾が語りかける。
「どうです、直に縄を感じてみたくなりませんか」
そう訊かれて、ためらうことなく美咲は首を縦に動かした。
麻縄を肌で感じる。それは憧れだった。
裸体に厳しく縄され、忘我の境地に追いこまれた女性の姿。そんな画像をネットで見るたび、美咲は羨ましくてならなかった。いつか自分も体験したい。そう密かに想いつづけ、ついにその日がきたのだ。
だが、素直に頷いてしまった後で、はたと気づいた。直に縄を感じるとは、裸に剥いて縛って欲しいと言っているに等しいではないか。しかも芹尾は「上半身の縛りは完成」と言った。自分はとんでもないことに頷いてしまったのではないか。
「胸元をはだけさせても良いですか」
出し抜けに尋ねられて、思わず首を横に振っていた。
頷いた後で、すぐに拒絶する。矛盾しているのはわかっていた。しかし、明るい部屋で目の前には鏡があり、カーテンは開け放たれたままである。
首を横に振ったのに、背後から手が伸びてきた。ビクンと驚いて肩をそびやかせたが、既に襦袢の衿に芹尾の指がかかっていた。
美咲は慌てて、再び首を振る。拒絶が伝わらなかったのかと思ったのだ。ところが芹尾はお構いなしで、襦袢を縄の下ですすっと滑らせ、衿を左右に引きはがしていく。
「ダメ……」
か細い声で哀訴する。
本当は、こうされたかったはずだった。こんな光景を妄想しながら、身体を潤したことも一度や二度ではない。なのに、鏡の前で徐々に胸を開かれていく恥辱は、美咲の想像を超えて、あまりに官能的すぎた。
衿元が広がるのに従い、酔いで桜色に染まった肌が、さらに濃く色づいていく。羞恥の朱色が、身体の内側で燃え立っているためだ。V字の隙間から肉の谷間が姿を現した。双乳がせめぎ合うように盛りあがり、深い谷間はしっとりと汗に濡れていた。
「は、恥ずかしいです……」
驚きと羞恥で声がかすれた。美咲は三度(みたび)、首を横に振る。
しかし、胸の谷間を強調した写真を、初めてブログで公開したときの興奮が、にわかに蘇ってきてしまう。
本当は見られたがりな女なのだ。そんな自分を否定したくて、美咲はさらに首を激しく振る。男の眼差しに感応して、悦んでしまう身体が恨めしかった。
そんな美咲の胸中を知ってか知らずか、芹尾の手は止まらない。むごいほど緩慢な動きで、じわじわと恥辱が拡大されていく。もはや乳房が全貌を現すのは時間の問題だった。
ところが、急に胸元が開かなくなった。
芹尾が手を止めたのではない。衿の縫い目が、胸の突起に引っかかったのだ。
「あああっ……」
たまらず美咲は声をあげてしまった。
布に擦れた乳首が勃起して、結果として辱めを食い止めていた。しかし、それは胸を開かれる以上の恥辱だった。
芹尾が鏡の中で、意地悪な微笑みを浮かべる。美咲が初めて目にする表情だった。ついに本性を剥きだしにした芹尾に、淫蕩な女の本性を暴かれてしまうのだろうか。そう考えた矢先だった。
襦袢が乳房に強く押しつけられた。芹尾の悪戯な眼差しが、鏡に向かって投げかけられる。これからがお楽しみですよ、とでも言いたげなサディストの眼差しだった。
お願い……ダメ……
そう思う間もなく、一気に衿が開かれていた。
「はうっ……」
一旦、衿に引かれて胸肉が外側にたわむ。
次の刹那、ぶどうの皮でも剥くように、勢いをつけてプルルンと果肉が弾けでた。
「ああっ……ああんんっ!」
敏感な乳首が、したたかに擦られる快感で全身が痺れた。美咲はたまらず背中をのけ反らせ、天井に向かって悶え声をあげてしまっていた。それまで芹尾に聞かれていなかった性感にあえぐ艶声だ。
「おおっ!」
すぐさま芹尾が、おののいたように感嘆の声をあげる。
「ひっ、いやっ……」
美咲は肩をすぼめ、鏡に映った乳房を隠そうと試みる。しかし、縄で縛められた自由の利かない身体だった。芹尾がしようと思えば、どのようにでも弄ぶことができる身体だった。
肩をつかまれ、ぐいっと力がこめられると、豊かな双丘は丸のまま部屋の空気にさらされてしまう。どうか隅々まで鑑賞してください、とでも言わんばかりに卑猥な形に歪みきった肉塊が、痛々しく鏡に映しだされていた。
「ああ、たまらないなぁ」
興奮を素直に声にして、芹尾が瞳を輝かせる。さらされた乳房に、灼けつくような視線を感じた。
美咲はぎゅっと目蓋(まぶた)を閉じて、恥辱に耐えようとした。女の大事な膨らみを丸だしにされた姿を見ていられなかった。
「目を開けて!」
いつもの口調とは明らかに違う、興奮で上ずった声が響いた。
「ほら、しっかり見て!」
肩口をつかまれ身体を揺すられると、美咲は「ああ」と声にならない吐息をこぼしてしまう。
厳しい口調でたしなめられると、感じてしまう性癖が備わっているのだろうか。男性に何かを強いられると、悶え悦ぶ身体なのかもしれない。そう思った。
今さらに下着を身に付けていない無防備さが後悔された。太腿をしっかり閉じ合わせていないと、ヌメリが溢れ広がってしまいそうなのだ。
芹尾は言った。長時間の緊縛になると。
もしそうなれば、どうなってしまうのだろう。悦びを太腿に滴らせながら、その恥辱に耐え抜かねばならないのだろうか。想像するだけで、花びらの内側はさらに潤いを増し、妖しく匂い立ってしまう。
「綺麗ですよ。私の縛りを見てください」
一転して、芹尾が普段の穏やかな口調に戻った。
眉根にしわを刻みつけ、こみあげてくる興奮にあらがう美咲の姿が、怖がっているように見えたのだろうか。
その優しい声音(こわね)に励まされ、美咲は恐る恐る目蓋を開いていく。
「ああ……うそぉ……」
瞬時にして視野に飛びこんできた自らの姿に、美咲は愕然とした。
素肌にしたたか食いこんだ麻縄によって、見る影もないほど双乳はひしゃげ潰れされていた。そのせいで、絞りだされた乳房の上には、二段重ねの鏡餅のように乳輪が小高く迫りだし、てらてらと妖しく輝いている。
それより何より恥ずかしいのは、その頂点で尖り勃った蕾だった。美咲がこれまで目にしたことがないくらい長く伸び、小指の先ほどにも突きだして見えるではないか。どうか弄り回してください、ご随意にねぶってくださいと、淫りがましくネダっているかのような勃起状態だった。
こんなの……いやらしすぎる……
変わり果てた自分の姿をつぶさに見ることで、性感が激しく高まり、身体が痺れきっていた。こんな姿を芹尾に見られているのだ。そう考えただけで、どうしようもない疼きが身体を突きあげる。
今すぐにでも自らの指で乳首をこね回し、陰核を掻きむしりたい衝動に美咲はかられていた。
「いい恰好でしょう。記念撮影しますか」
芹尾は努めて穏やかに話そうとしているようだった。とはいっても、冷淡で皮肉めいた物言いからは、いつもの優しい雰囲気が感じられなかった。
美咲は声もだせずに恥じ入って、ただ首を横に振るばかりだ。芹尾に支えられていないと、真っ直ぐに立っていることさえ困難だった。身体が苛烈に疼き返って、荒くなった息を押し殺しているだけで精一杯なのだ。
「撮影はもう少し後にしましょう」
冷静な口調であっても、芹尾の瞳はぎらついていた。鏡に映る美咲の肉体を視線だけで凌辱しながら、次なる責めを思案しているサディストの眼だった。
「まだ縛りが終わっていませんからね」
そう言うが早いか、手が回りこんできて、襦袢の裾を音もなく広げた。
「あっ!」
美咲が驚きの声をあげた時には、既にして鏡には、恥ずかしすぎる恰好が映しだされていた。
「ほお、下着は脱いだのですね」
芹尾の声に驚きはなかった。むしろ蔑むような低音の響きに、美咲は打ちのめされる。はしたない女だと責められている気分がした。
「ううっ……見ないで……」
とっさに腰をよじり太腿を重ねて、その部分を隠そうとする。しかし、鏡の前で腰をくねらせる姿は無様で、芹尾の嗜虐心を煽るにすぎなかったかもしれない。
「ほら、しっかり見せなさい」
物静かな声だった。なのに美咲は抵抗を諦めて、身体を芹尾の腕に委ねた。命令口調で言われると、身体は力を失い、心は芹尾の意に従ってしまうようだった。
艶(なま)めかしくさらされた太腿の付け根に、淡い翳(かげ)りが映しだされていた。決して旺盛に茂っているわけではないが、逆三角形の下草が女の在りかを指し示す矢印のようようで恥ずかしかった。
脱力した美咲をいいことに、芹尾がさらに裾を割る。山の形に開いた前合わせがさらに開かれ、下着を身に付けていないその部分に熱い視線が注がれるのを感じた。
もはや腰紐だけが頼りとばかりに、襦袢ははだけきっている。上半身の乳房と下半身の陰毛を、より強調するためだけに存在している布にすぎない。
「黒の下着は、濡らしすぎて脱いでしまったんですね」
そう指摘され、かっと火がつくように顔が火照った。
芹尾は見ていたのだ。着物の裾を乱して撮影した時に。黒のショーツばかりか濡れ染みさえ見られてしまったのに違いなかった。
ああ……見られていたんだ……
芹尾の言葉に嘲弄の匂いを嗅ぎとって、美咲の身体はさらに疼きを増した。自由を奪われ、恥ずかしい姿を視姦されるだけでもたまらないのに、言葉で虐められると、どうにもならないほどマゾの血が燃えたぎってしまう。
さらされた陰毛の奥が熱かった。
トロトロと湧きだす女の悦びが今にも秘唇から溢れ、太腿を伝い流れてしまいそうだ。乳首ばかりか割れ目の上で膨らみはじめた蕾までもが、性感を欲しがってにょっきりと頭を持ちあげているのがわかる。
「さあ、縛りを完成させますよ」
芹尾に促されて鏡に背を向ける。
もはや、なすがままに身体を動かしている操り人形のようだった。頭の中はモヤがかかったように白み、何も考えることができない。ただ、ひたすら身体の疼きが激しくこみあげてきて、意味もなく「ああ」「うう」と声が漏れでてしまう。
芹尾が新たな縄をベッドから取りあげ、美咲の前にしゃがみこんだ。
吐息が下草をそよがせる感覚に、思わず腰を引こうとする。しかし、二本の腕でがっちりと腰を捕獲され、身体が引き戻されてしまう。
何も身に付けない股間を間近で見られてしまう恥辱は、もはや視線の愛撫になろうとしていた。それでいて、漂いだした女の匂いを嗅がれてしまうかもしれない状況に、心中穏やかではいられない。太腿をピタリと張り合わせ、身を堅くしている以外に、美咲にできることはなかった。
襦袢の下に手が入りこんできて、腰に縄が巻きつけられる。ぎゅっとウエストが引き絞られる感覚に「んっ」と呻き声を発してしまった。
新たに加わった拘束感は、新鮮すぎるほど官能的だった。その苦しさは次なる官能の呼び水となって、いやが上にも興奮を煽られてしまう。
この先、何が行われるのか美咲にはわかっていた。
緊縛に興味を抱いてからというもの、その手のブログで何度も見かけた下腹部への縛り。屈辱的であるがゆえに、憧れずにはいられなかった股縄縛りが、いざ我が身に施される段になって、期待と不安が胸中に入り混じる。
されてみたいと熱烈に想う反面、無様に乱れてしまうかもしれない自分を恐れずにはいられない。
「少し脚を開いてください」
そう言われても、美咲はくねくねと腰をくねらせるばかりだった。濡れそぼった股間を、芹尾の眼前で開いてしまうことに抵抗があったのだ。
身も心も委ねればいい。そう頭でわかっていても、どこかで理性が働いてしまう。羞恥がためらいを生む。ここに至って、まだ従順になりきれない自分がもどかしくなってくる。
「脚を開きなさい」
聞き分けのない子供を諭すような、静かで威厳に満ちた声がした。
その声に力を得て、脚を開いていく。奥歯を噛みしめ、自らを鼓舞した。たまらない恥辱の裏に潜むのは、言いなりになる悦びだった。
後ろでT字に垂らされた縄が、すかさず両脚の間をくぐらされる。尻の割れ目に縄が食いこむ感覚に身悶える間もなく、女の急所を縄が締め付けてきた。
「はあああっ!」
鮮烈な快美感とともに、縄から逃れようと爪先立っていた。
全身をわななかせると、二の腕の縄が肉に食いこんで軋んだ。改めて上半身の自由が奪われているのだと実感される。
ダメと言う言葉のかわりに、赤らんだ顔に哀願を滲ませ、美咲は芹尾を見つめた。しかし、芹尾は何も言わずに再び股縄を引きあげる。
「くふうぅぅぅ……」
喉を引き絞った呻きをあげ、必死に縄から逃れようと身悶えた。
縄が花びらを巻きこむようにして、割れ目に食いこんでいた。性感とはほど遠い痛みに身体を貫かれ、無様に爪先立ちしてふらふらしてしまう。
芹尾は、まるで猿回しか鵜飼いのような顔をして、美咲を見下ろしている。笑いを噛み殺しているような表情にも見えた。
「しっかり縄の感触を覚えてください」
そう言って、もっと芸をしろとばかりに、縄を左右に振る。軽く振られただけなのに、股間のヌメリで縄が滑る感触がした。股間にひりつくような痛みが駆け抜ける。
「ダメっ……縄が……あああっ……」
縄による痛みを訴えたのではなかった。
縄が汚れてしまうと言おうとしたのに、あえぎ声でつづけられなかった。言ってしまったなら、ひどく濡らしている淫らさを自ら認める恥辱を味わっていたかもしれない。そうした考えさえ、今の美咲には思い浮かばないのだ。
芹尾はウエストに巻き付いた縄に縄尻をくぐらせ、縄を持たない左手で美咲の恥毛の辺りをぐいっと持ちあげた。
瞬間、手が性器に伸びてくると勘違いして美咲は身構えた。しかし、芹尾の行動の意味がわかった時には、動揺と羞恥と、それを上回る性感に見舞われていた。
「いやっ……ああああああっ!」
あられもない大声をあげてしまったのに、恥ずかしさを感じる余裕などなかった。股間に渡された二本の縄で、陰核が挟みこまれたからだ。
芹尾に剥かれた生身の蕾が縄に擦れた瞬間、総毛立つような刺激に悶絶した。湧きだした愛液がぐっしょりと縄に染みていくのがわかる。
あまりに刺激が強すぎて、じっとしていることができなかった。腰をくねらせ、くの字に身体を折り曲げ、逆に腰を突きだし胸を反らせてみる。
しかし、いかなる体勢を取ろうと、芹尾が縄を微細に動かすだけで、いやらしい感じ声をほとばしらせて悶え抜いてしまう。
「ふふ……いい反応をしますね」
薄ら笑いとともに、芹尾が縄を引いた。とたんに目蓋の裏がひっくり返るほどの痛みを感じて、イヤと大声でわめいて髪を振り乱してしまう。
痛みと快感を交互に味わわせることで、芹尾は反応を楽しんでいるようだった。縄の感触を教えこんでいるのかもしれない。
芹尾に与えられるなら、痛覚でも快感でも美咲は構わなかった。痛みさえ身体は悦びで痺れ果て、縄の間で膨らんだ蕾がヌルヌルになっていく。
「記念撮影しましょう。こっちに来て」
そう言って、芹尾が縄をぐいっと引き寄せた。
女の大事な部分を繋がれ、縄を引かれて歩かされる屈辱に妖しく心が躍った。美咲はひぃひぃとあえぎながら、甘美な被虐感に酔いしれてしまう。奴隷めいた、罪人めいた感覚を刺激されるせいかもしれない。
縄を片手に持ったまま、芹尾がベッドの横でカメラを構えた。
「ほら、いい顔をして」
フラッシュが瞬いた。カメラを意識して、平素の表情を浮かべようとすると、芹尾が意地悪にも縄を引く。美咲が悶えた瞬間を狙って、再び閃光が浴びせられる。
「じっとしていないと、写真がブレますよ」
口調は淡々としていても、芹尾の声にはサディスティックな喜びが滲んでいる。
シャッターを押しては縄を左右に振り、性感に悶えるとたしなめられ、再びシャッターが切られる。延々とつづけられる責めに、美咲の理性は跡かたもなく崩壊していった。
「はああああああっ……ああっ……」
縄をこれでもかと引かれて、爪先立ちして腰を前に突きだす。快感よりも性器を擦られる痛みが勝っていた。なのに漏れだす声は、すべて感じ声だった。恥じらいを忘れて縄の動きに感応し、貶(おとし)められた女の悦びに浸りきってしまう。
その時だった。責めに夢中になる芹尾の姿がぼんやりと視界に入る。片手で縄を持ち、もう一方の手にはカメラ。ベッドの脇に脚を開いて立つ姿に、美咲ははっとして目をつぶった。見てはいけないものを見てしまっていた。
ジーンズの前合わせが不自然に盛りあがっていたのだ。
それが、性的な興奮をした時に現れる男性特有の肉体的な変化であることは、いかに性体験の乏しい美咲であってもすぐにわかった。
見てはいけないと思う。けれど、自分を責めることで芹尾が興奮を覚えてくれているのだとすれば、これほどに嬉しいこともない。
薄眼を開け、吸い寄せられるように芹尾のそこに視線を這わせてしまう。デニムの表面に男性の形がくっきりと浮きあがっていた。先端のくびれさえ、はっきりとわかるほどだった。
ああっ! あんなに……
言いようのない感激で心が震えてしまう。
あの野太い欲望の証を、芹尾がさらけだした時、自分はどうなってしまうのだろうか。恐怖に身体をすくみあがらせるのか、悦びで瞳を輝かせてしまうのかはわからない。
ただひとつわかっているのは、縄で責め抜かれた蜜壷が、この瞬間にもひくひくと蠢(うごめ)いて、どっと潤滑油を滴らせている事実だった。
男を受け入れる準備をはじめた己が身体の淫らさに、美咲は戸惑わずにはいられない。それでも、たくましい男根から目が離せなかった。
「夜桜7」につづく
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こんばんは
エントリーを読み、頭ではその情景がすぐさま浮かび上がります。
美咲を自分に重ねて、芹尾さんをご主人様に重ねて、
生々しく思い浮かべました。
画像のみぃ様も、とても素敵な格好ですね。
これは自縛でしょうか?
益々エントリーに目が離せなくなります。
なほこ